加賀海岸シーサイドトレイルランのスタート地である石川県加賀市橋立町を、トレイルランナーとして30年以上、世界を旅をしながら走ってきた石川弘樹さんと巡りました。

海と生きた町を走る ― 橋立町とトレイルの記憶
石川弘樹
橋立町を巡り、走り、歩き、立ち止まり、話を聞く。その一つひとつの時間が、この土地の奥行きを静かに教えてくれました。
トレイルランニングというと、どうしても山の中や自然そのものに意識が向きがちですが、実際には「人がどのように自然と関わり、暮らし、道をつくってきたか」という長い時間の積み重ねの上に、今のトレイルは存在しているのだと私は思います。
橋立町は、そのことをとてもわかりやすく、そして力強く感じさせてくれる場所でした。
北前船によって育まれた港町 橋立

大阪から瀬戸内海を経て北海道へと続いた日本海航路は、単なる物流の道ではなく、言い換えれば、人・文化・価値観が行き交う「生きたトレイル」だったのだのではないでしょうか。
命をかけて航海に出た船乗りたち、才覚ひとつで富を築いた船主たち、そして海と共に生きることを選び続けた町の人々。その歴史は、今も街並みや石畳、屋敷の佇まいの中に息づいているように感じました。
加佐の岬に立ち、夕日を眺めて、日本海を望んだとき、この海の向こう側と確かにつながっていた時代に思いを馳せました。

風、潮の匂い、断崖から見下ろす絶景
それらは単なる「美しい景色」ではなく、この土地が長い時間をかけて紡いできた物語の一部なのだと感じます。そんな背景を知った上で走るトレイルは、同じ景色であっても、まったく違った表情を見せてくれます。
地元の方にとっては日常であり、「ここには何もない」と言われてしまうこともあるかもしれません。けれど、各地を走り続けてきたトレイルランナーだからこそ、その土地が持つ固有性、文化や自然の個性が際立って見えてきます。
橋立町には、海と生きてきた町ならではの時間の流れと、現代にも確かにつながる魅力が詰まっていたと思います。
トレイルレースは、スタートからゴールまでの数時間だけで完結するものではありません。その土地を知り、歩き、話を聞き、景色を眺める時間があってこそ、トレイルを走ることが「記憶に残る体験」へと変わっていきます。
加賀海岸シーサイドトレイルランは、自然の美しさだけでなく、地域の歴史や人の営みを感じながら走れる、とても豊かな舞台を持ったレース、フィールドだとあらためて感じました。
トレイルとは、自然の中にある道であると同時に、人と人、土地と土地、過去と現在をつないできた道でもあります。
橋立町を起点に、そんな視点でトレイルを見つめ直したとき、一人ひとりのランナーにとっての「自分だけのトレイルトリップ」がきっと見つかるのだと思います。
これから訪れる多くのトレイルランナーであり、旅人である人々にとってこの町、この加賀海岸シーサイドトレイルを走る時間が、ただ走ることの楽しさだけでなく、土地を知る喜び、旅する感覚、そして自然と向き合う静かな時間へとつながっていくことを願っています。
海を感じながら走るトレイル、街並みのあちこちに残る歴史
石川枝里子
私たちの旅先には必ず「トレイル」があります。それは、観光地を巡るというよりも、その場所にしかない「トレイル」を走ることが目的です。それとともに、その土地の食や人、歴史、文化に触れあうことを楽しんでいます。
今回のトリップは、海沿いのトレイルと橋立町。海を感じながら走るトレイルは、これまで走ってきた山の中のトレイルとはまた違った魅力があり、初めて走ったとき、日本にこんなにも美しく、心に残るトレイルがあったのかと、素直に驚きました。
橋立町の街並みを歩き、話を伺ううちに、少しずつこの土地の輪郭が見えてきました。北前船で栄えた町の歴史や、海と共に生きてきた人たちの暮らしは、今も街並みのあちこちに残っています。
そんなトレイルと街並みを一度に味わえる加賀海岸シーサイドトレイルランは、地元の方はもちろん、全国のトレイルランナーにもじっくりと味わっていただきたいレースです。
できることなら、立ち止まって景色を楽しみながら走っていただけたらと思います。

ここからは石川夫妻と巡った橋立町とその歴史をご紹介します。
航路が繋いだ「一航海千両」の大動脈
橋立町地域は、18世紀半ばから北前船の集落として発展してきました。当時、大阪から瀬戸内海を経て北海道までをつなぐ日本海側の航路は経済の大動脈。
北前船は寄港地で売買をしながら大量の物資を運び「一航海千両」といわれる富、そして文化をもたらしました。橋立町には今も北前船主の豪邸が建ち並び、海と共に生きてきた文化が色濃く残されています。

北前船主集落
橋立町は港町であると同時に、北前船の船主・船頭・船乗りが住む船主集落であるのが特徴。国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。
まずは航海の安全を祈り船主たちが奉納してきた出水神社にお参り。


蔵六園
そして、北前船主屋敷 蔵六園さんへ。



MAGONDO
ランチはMAGONDOさんへ。
集落の複数の古民家をレストランや一棟貸しのコンドミニアムに改装、歴史・文化を感じながらの滞在することができます。

新鮮な食材を栄養バランスよく、そして彩り豊かに提供することを心がけているとのこと。季節感を感じながら、旅先でのこういった食事はレースへ向けてのコンディションが整いそう。
おなかが落ち着いたところで店主の宮本さんとお話し。
途中からは、翌日の加賀海岸シーサイドトレイルラン2025に出走する女将さんへ、石川さんによるレクチャーも。



その後、宮本さんに橋立集落を案内していただきながら、北前船首の文化についてざっくばらんにお話しいただきました。(一般向けにボランティアによるガイドツアーが実施されています)


船頭たちの屋敷には、西洋化の波で見かけることが少なくなった日本の美意識や感受性、地域の独自性がふんだんに残されており、北前船による日本各地との交易の影響が色濃く感じられました。

蔵六園さんやMAGONDOさんのお話を聞いているうちに、現在の高速道路や新幹線沿いではなく、海沿いが当時の経済の一等地だったとわかりました。「古い街並みは落ち着きますね〜」くらいの気持ちでスタートしましたが、街並みや景色の捉え方がガラッと変わり、「北前船でつながっていた他の寄港地はどうだったの?」など興味が湧き上がってきます。(例えば、山形県酒田市にも残っている)
地域にはそんな文化歴史がたくさん残っていると思うと、地域のレースに出る楽しみが一気に広がり、地元の方と話すのが楽しみになります。ぜひ皆さんも自分なりのトレイルトリップが見つけてみてください。











